8Kがもたらすリアリティの革命。8Kエコシステムを目指すシャープのオンリーワン戦略 – AV Watch

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  • 日沼諭史

2017年7月18日 11:00

 テレビ市場では4Kテレビが人気だ。販売台数の上ではまだ2K製品が多いが、金額ベースではすでに4Kテレビが50%を超えており、4Kの普及は着実に進んでいる。そんななか、いわば“一足飛び”とも言えるような次世代の「8K」に取り組んでいるのがシャープだ。

2017年6月30日から販売を開始したシャープの70型8Kモニター「LV-70002」

 同社は2015年10月30日に85型の8Kモニター「LV-85001」を発売済み。2017年6月30日には70型8Kモニター「LV-70002」の販売も開始した。85型は約1,600万円、70型は約800万円と、4Kテレビと比べても桁違いの価格だ。もちろんこれは、8Kモニターが今のところコンシューマー向けというよりも、8K映像制作や8K試験放送受信などの業務用途にフォーカスした製品だからというのもある。

 2018年12月には、BS/110度CSデジタルで既存の右旋電波による4K実用放送に加え、新たな左旋電波を利用する4K/8Kの実用放送が開始する計画となっている。ところが、現時点ではこれら右旋・左遷電波による8Kはもちろん、4K放送ですら対応する受信機器がまだない状態だ。

 来年の放送開始までには8K対応製品の登場が見込まれるとはいえ、そうした状況でシャープはかなり「8K」に向けて突っ走っているように見える。シャープは8Kのどこに可能性を感じているのだろうか? 本誌で連載中の西川善司氏と西田宗千佳氏のコンビが、今後の8K戦略についてシャープに話を聞いた。

左からシャープ株式会社 ディスプレイデバイスカンパニー デジタル情報家電事業本部 栃木開発センター 第二開発部 課長 武田倫明氏、同社国内事業部 8K推進部長 高吉秀一氏、同事業部長 宗俊昭広氏

西川善司氏(左)と西田 宗千佳氏(右)

2018年から開始する新たなBS/110度CSデジタル 4K/8K実用放送

 最初に、2018年から開始する右旋・左遷電波を用いたBS/110度CSデジタルの4K/8K放送について改めて整理してみよう。

 この新たなBS/110度CSデジタル 4K/8K実用放送は、従来のBS/110度CSデジタル放送とは異なり、今ある受信機器(テレビ、チューナーなど)では視聴できない。視聴するには、今後発売されると目される対応製品を購入する必要がある。右旋のBSデジタルではNHKほか民放5社が4K実用放送を、左旋のBS/110度CSデジタルでは民放5社が4K実用放送を行なう。8K放送は、左旋のBSデジタルでNHK 1社が実施する予定。12ある放送局のうち、8K放送はこの1つのみだ。

8K/4K放送を行なう放送事業者

 これら新たな4K/8K放送では、対応する4K/8Kテレビで受信することで高解像度(8Kは7,680×4,320ドット)の映像を楽しめる。HDR映像にも対応し、コントラストの大きいシーンでも明暗それぞれの細部を精細に表現する。サウンド面では5.1chから最大22.2chのサラウンドに対応するため、よりリアリティの高い音場表現が可能になる。

8K/4K試験放送チューナ「TU-SH1050」

LV-70002

LV-70002では、HDMIケーブルを4本同時接続することで8K解像度の表示を可能にしている

8Kの“精細感”の可能性。テレビだけでない広がりを

 いまのテレビ市場においては、シャープ以外の主要メーカーは、有機ELをフラッグシップに位置付けている。そんな中、シャープは2018年の新4K/8K放送に向け、8Kを積極的に強化する方針を表明している。まさに「オンリーワン」の戦略で8Kに臨んでいるのだ。

 「暗い環境でコントラストが良く、映画を高品質に楽しめる」というのが最近の有機ELテレビのメッセージだ。対するシャープは、液晶ならではの8Kの精細感、そして色再現性の良さ、明るさ、階調性といった基本画質性能の高さに加え、業務利用にも求められる長期信頼性や低消費電力といった特徴も重視し、8Kの強化を目指している。

“臨場感”は8Kならでは

 シャープがとりわけ8Kに力を入れているのは、液晶のリーディングカンパニーであるというだけでなく、4Kの4倍の解像度を実現する“精細さ”とその可能性を評価していることが、最大の理由だ。同じディスプレイサイズで比較した時に、4Kよりもピクセルサイズが小さくなることだけでなく、グラデーション部分の階調表現も細かくなることから「立体感がより表れるようになる」という利点もある、と同社デジタル情報家電事業本部 国内事業部 8K推進部の高吉氏。「特に8Kの良さ感じるのはスポーツなどのパブリックビューイング。サッカーや野球では引いて撮っても選手の動きがわかる」とし、「これから活性化する市場」と話す。

8Kは活性化する市場、と高吉氏

 西田氏は「最近のテレビは色域や輝度に競争のポイントが移ってきた。高解像度はもういいという話もある」と聞くが、「色が良くなるのは重要だが、色と8Kの精細感を両立できればさらに素晴らしいものができる」と高吉氏。

 たとえば、美術品を8Kで撮影した映像では、美術館の展示環境では肉眼で確認できなかった微細な描写まで視認できるようになり、今までよく知られていた絵画であっても新たな発見につながったり、画家の知られざる技術を子細に分析することが可能になる。物理的なスペースの問題で、美術館では作品を入れ替えながら展示しているケースが多いが、高解像度で観察可能な8Kでアーカイブすれば「シーズンごとに収蔵作品を出し入れする必要がなくなる。そのため、業界では8Kが熱いトピックになっており、まさに研究が始まっているところ」だという。

「LV-70002」の映像を確認する西田氏と西川氏

 医療も8Kが大きな役割を果たす分野だ。同じく肉眼では視認の困難な細い手術糸も8K解像度なら見分けることができる。8Kモニターを通すことで、それまで人の手では扱えなかった細い手術糸を扱えるということは、患者にとってより負担の少ない手術が可能になることを意味している。さらに、遠隔診療でも8Kの恩恵は大きい。医師のいない離島と都市圏の大規模病院を広帯域ネットワークで接続することで、8K映像による詳細な診断が行なえるからだ。

 デジタルサイネージにも8Kの解像度は有効となる。たとえば駅にある案内地図のようなものは印刷を前提にデザインされているため、フルHDや4Kディスプレイで表示すると、細かなアイコンや文字がつぶれて見にくくなってしまうという。ディスプレイデバイスで表示させる必要がある時は地図データの一部を作り直すことになるが、これが8Kディスプレイであれば、元のデータのまま細部まで正確に表現可能で、データを作り直す手間も不要になるとしている。

Windows PCで多数のファイルアイコンを一覧表示。8K解像度の威力をまざまざと実感できる使い方と言える

8Kの業務用応用例

 デジタル情報家電事業本部 国内事業部の宗俊事業部長は、「8Kでは見えないものが見える。今まで2K、4Kとやってきたが、8Kで“見えないものが見える”に到達した。これは、可能性があると感じた」と言うように、8Kが感性に訴えかける技術であることも、同社が8Kを推進する要因のひとつなのだ。

8Kでは見えないものが見える、と宗俊氏

Realism, more real. by 8K Technology

シャープの8Kのアドバンテージとは

 このように業務用として、主に解像度の面で数々の利点をもつ8Kだが、同社が販売開始したばかりの70型8Kモニター「LV-70002」は、コンシューマー向けも視野に入れた設計を行なっている。たとえば、85型の「LV-85001」よりも内部の部品点数を大幅に削減し、筐体を小型化しながら将来的にチューナを搭載する余地も残した。冷却用のファンが不要になったことなどにより消費電力をおよそ3分の1となる470Wに低減し、100kgあった筐体重量も42.5kgに。高吉氏いわく「家庭用も視野に入れたサイズ感」へと進化した。

 技術の進歩により、2Kから4K、そして8Kと解像度が上がっていくのはよいが、「どこまで必要なの?」と思う人もいるかもしれない。だが、高吉氏は「解像度は、8Kで落ち着く」と語る。これには理由がある。NHK放送技術研究所などの実験では、実物と見分けがつかない映像の精細度が8Kとなっているのだ。つまり、8K以上に精細度をあげても、その効果は小さなものとなってしまうという。

 つまり、8Kの解像度があれば、“実物と見分けがつかない”、本当にリアルな映像表現が可能になる。だから、シャープの目標は“8K”ではなく、ディスプレイに“実物感”を与えることなのだ。

 「LV-70002」に見るように、将来を見越した8Kの基本的な技術は確立した。これ以上の解像度が必要になる時代はかなり先となるだろう。そのため、今後は解像度ではなく、総合的な高画質化に向けた取り組みを進めていく計画だ。

LV-70002

 そのキーとなるのが、高画質LSIの開発だという。これは、西田氏の「追いかけてくる人に対して、シャープの8Kのアドバンテージとしてどう差別化できるのか」という問いに対するものだ。フルHDテレビや4Kテレビのように、他社も8Kテレビの技術を早々にキャッチアップし、さまざまな製品が店頭に並ぶことが考えられる。差別化できなければ、価格競争に陥って消耗戦になる可能性もあるのではないか、との懸念がある。

 しかし高吉氏の回答は明確だ。同社は、2011年頃から8Kにつながるディスプレイ、たとえば4K液晶ディスプレイで8K相当へのアップコンバートを実現するAQUOS 4K NEXTシリーズの開発で、8K開発においては他社に先行してきたことを1つの差別化要因として挙げる。そうしたノウハウを積み重ね、同社としては「最後のラストワンマイル、メーカーとしての最大のポイントは高画質LSIである」ことを実感した。自社設計、自社製造のパネル、そして高画質LSIを組み合わせることで、さらなる高性能・高画質化を達成する製品づくりが可能になり、それが大きなアドバンテージになると考えているわけだ。

 高画質LSIの役割には、低解像度映像の8Kへのアップコンバート処理や、より進んだHDR処理、広色域パネルを活かすカラーマネジメント処理、将来的には現在60Hzのリフレッシュレートの120Hz化を含む。「LV-70002」にも2Kや4K映像からのアップコンバート処理は入っており、西田氏と西川氏が「違和感がない。自然に見ることができる」と話すように完成度は高い。加えて、同社栃木開発センターの武田氏いわく「シャープならではの高画質化エンジン」を取り入れ、すでに対応しているHDRについてもブラッシュアップさせる。色域についてはBT.2020におけるカバー範囲がLV-70002では79%だが、この拡大も視野に入れる。

武田氏は、高画質LSIによるシャープならではのアップコンバート処理を盛り込む、と宣言

 色域に関しては、「今後8KにおいてBT.2020が標準になってくるなかで、バックライトシステムが重要になってくるのではないか」と西川氏。高吉氏もそれに同意し、有機ELに比べて、液晶方式の方が色表現においても構造上優位性が高いことを説明した。

 有機ELのような自発光デバイスの場合、発色のための調整はそのデバイス単体でしかできない。しかし、液晶ディスプレイは「カラーフィルターとバックライトの組み合わせでさまざまに調整できる」点がメリットだという。今回の「LV-70002」でも、「詳しくは言えないが、カラーフィルターとバックライトのLEDを新しいものにしている。良くも悪くもバックライト構造のおかげで手を付けられる部分がたくさんある。数値的にBT.2020(の100%の色域)にどんどん近づけていける」とする。

 画質以外にも同社のアドバンテージはある。他メーカーは部品ごとに調達先が異なったり、設計だけを行ない製造は別会社、としていたりするパターンが多い。その場合、「当初メーカーがターゲットとしていた性能をもつ製品を作りにくい」と高吉氏。設計も製造も、基幹部品の調達も自社でまかなうシャープは、そういった点でも強みがあるとする。「自社工場では最終の微細な調整も可能。設計通りに製造し、量産出荷段階でも同じようになっている、というところまで作り込むのは、全体で一貫してやらないと非常に難しい」という。

 シャープでは、2018年12月の8K/4K実用化放送に先駆けて、8K/4Kチューナ搭載の8K/4Kテレビを発売すべく、着々と準備を進めている。実用性のある8Kモニターを他社に先駆けて市販でき、高性能・高品質化を行なって、2018年の4K/8K実用放送を見据えた量産へと進むことができるのは、液晶パネルの開発はもちろん、高画質LSIの開発、製品設計から製造に至るまで、全てを自社で対応可能な「One SHARP」の体制があるからこそ、と高吉氏は強調する。

シャープ8Kテレビのロードマップ

インフラや撮影機材までカバーする「8Kエコシステム」を実現へ

 しかしながら、こうした高解像度を活かした取り組みや、8Kテレビの量産を目指す動きは、シャープにとっては「8K戦略」の一環でしかない。宗俊氏は、8K対応のディスプレイやテレビ放送受信機など表示デバイスの開発を進める一方で、「8Kエコシステム」の構築を実現することが同社にとってのミッションであり、8Kを広く普及させる鍵になると見る。

 具体的には、表示デバイスに加えて、8Kコンテンツのライブラリ整備、大容量の8K映像データの伝送(配信)や管理を支えるインフラの構築、撮影・編集機器の開発など、8Kを取り巻くあらゆるシーンでシャープが製品開発に関わり、技術を提供するというものだ。

 撮影、編集した8Kコンテンツは、同社が構築した映像配信インフラを用いて送信し、家庭ではそれを8Kテレビで受信、表示する。これら制作、配信、表示の3つのポイントを総合的にカバーするために、親会社である鴻海の強みも積極的に活かしていくとしている。

テレビ以外の8Kへの取り組みについて聞く西田氏

 このなかで気になるのは撮影・編集機器の開発だろう。現在、映像プロダクションや放送局などで使用するカメラや編集機材は、他メーカーの存在感が圧倒的に大きく、そこに食い込むのはかなりの時間がかかるものと想像できる。さらに8K普及には製作コストの課題もある。

 「8Kの映像製作コストは高い。多くの人が8Kで撮りたいと思った時に、その作業コストを減らさないと8Kは普及しないと考えている。コスト構造の変革を目指すうえでも、エコシステムによるトータルの提案が必要になってくる」と高吉氏は語る。そうした課題をクリアするために、西田氏は、「プロに限らず、8K映像を簡単に編集できるようにする仕組みも必要になるだろう」と指摘する。

 西川氏は、技術や8Kエコシステムにおけるシャープの「ものづくり」としての価値にも目を向ける。バックライトやカラーフィルターなどの各技術にかかわる専門開発メンバーが在籍していることなどを挙げ、「コストと量産性を追求するものづくりではなく、日本の気質的なものづくり。それを体現できるメーカーが、テレビ製品に関してはシャープくらいしかなくなってくるのでは」と話す。

8Kと「ものづくり」を語る西川氏

 かつて、シャープのテレビが日本製の証明として「亀山モデル」というブランディングを行なっていた。「8K」は、シャープによる“日本のものづくり”を発信する技術となるのかもしれない。

(提供:シャープ株式会社)






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